自分は一体、どこに向かって生きているんだろう…。その日は、そんな重いテーマをずっと考えていた。
今日は12月28日。今年も残すところあと3日である。朝から友人が車で遊びに来た。「どっか行こうぜ!」。威勢の良い言葉のわりに二人ともあてはなかった。「なんか今年、やり残したことはねぇのかよ」。なかなか目的地が決まらず、苛立った友人がそうつぶやいた。
「そうだ! ストリップに行こう。ロック座だ」
こうして私は生まれて初めてストリップを見に行くことになったのである。
■伝統の浅草ロック座へ
この日は有馬記念があり、浅草の場外馬券場はにわかに盛り上がっていた。そのすぐ脇にトゥナイトで何度も見た、あの「浅草ロック座」はあった。料金は6、000円。年末で財布のヒモがゆるんでいたので躊躇せずに入る。
エレベーターを降りると、ラブホテルのような小さい窓のフロントがあった。中には40代くらいの男がいる。プログラムを尋ねると、「11時までずっとやっているよ」とのこと。今の時間は午後3時。入れ替えはなしなので、8時間は見れることになる。お金を払い中に入る。
照明は意外と普通でちょっとオレンジっぽい色。壁にはスナックにあるような紫色のソファーが並んでいる。奥には軽食やアルコールが飲めるカウンター付きの売店がある。全体的にロビーは狭く、小さな映画館のような雰囲気だった。
すぐ左側にドアがある。ここがステージへの扉だ。微妙にドキドキしてきたが、虚勢を張って勢いよく開けた。
■めくるめく世界へ
いきなり女性器が目に入ってきた。しかもロシア人(この時、瞬間的になんとなく分かったが、後で確かめたら本当にロシア人だった)。なおかつ2人もいる。
心の中では「あわわわ」となりながらも、平静を装い、目はステージに向けながら近くの椅子に腰掛ける。
ポップな音楽が大音量で鳴り響き、ステージにはまばゆいほどのスポットライトが当たっていた。完全に雰囲気に飲み込まれた。
私だって幼少の頃のエロ本に始まり、中学時代の裏本。今だったらエロサイト。それに実物だって見たことはある。「何も驚くことはない。現代っ子はこれぐらいじゃ驚かないぞ!」と思うが、目の前では、私がこれまでお目にかかったことのない世界が繰り広げられている。
冷静になってもう一度見る。ステージと客席との距離は一番近くて1メートル、私の位置ならちょっと遠めで4メートルくらいだ。
ちょっと待て、近いぞ。すんごい近い。
そんなことを考えている間にもロシア人は、全裸で寝っ転がって股を開いている。しばらく見ていると、二人がすごい似ていることに気づいた。「双子かな?」。一つ離れて座っていた友人に声をかける。返事がちょっと遅れる。向こうの世界に行っていたのだろう。「ああ…そうだな」。そういうと友人はすぐにステージに向き直した。その会話の30秒後ぐらいにショーは終わったが、すぐに次の出演者が出てきた。
ちょっと待ってくれ。頭が追いつかない。とりあえずロビーにビールを買いに行くことにする。
■さぁしっかりと見よう
ロビーには誰もいない。自販機には各種ビールが売っていた。全て500円。割高だが黙って1本買う。客席に戻り友人にビールを勧め、二人で交互に飲む。シラフではいられなかった。
これでちょっと落ち着いた。では、とステージに目を向ける。5人くらいの女の子が踊っている。この時点では服は着ていた。しばらく見ていると、踊りがだいぶ本格的なことに気づく。明らかにきちんとした振り付け師が付いている踊りだ。そして、踊っている女の子も「脱ぎます」という色気はなく。むしろ「ダンスを見て」という感じで。真剣な表情で踊っている。見れば見るほど踊りの質の高さに驚く。これはその辺のアイドルより厳しいレッスンをしていることが予想される。ストリッパーがここまで真剣にダンスをするとは思わなかった。
やがて女の子たちが一人消え、二人消え、最後に一人の子だけが残った。この子が脱ぐのだろう。曲が変わったのを合図にステージの前の方に歩いてきた。
すると客席から拍手が起きる。驚いて周りを見回すとほとんどが40〜60代のおじさんだ。馬券買ってそのまま来たようなストリップが好きそうなおじさんもいるが、満員電車でよく見かけるような、茶色のロングコートを着たサラリーマン風の人や普通にお父さんしてます、という感じの人も意外と多い。客席は約125席だが7割は埋まっていた。
改めてステージに目をやると、すでに女の人が横になっている。服を着たまま客席に足を向けて股を開いたり、閉じたりして客をじらす。
やがてパンツを脱ぎ、なぜかそれを手首に巻き付ける。いよいよである。
ステージの前方は自動で床が回転する仕組みになっており、女の子は足を開くだけで、自動的にぐるっとみんなに見られることになる。だが、私の方に来た時は運悪く足を閉じていた。「なんだよ〜」と残念がっている自分がいる。
だがすぐにまた回ってきた。今度はよく見えた。普通の蛍光灯で見るよりも、スポットライトの当て方が上手いのか、きれいで神聖なものに見えてしまう。それは言い過ぎでも、少なくとも、やけに真っ黒でよく分からない…。という感じではない。それに相当、訓練を積んでいるのだろう足の曲線がすごくきれいに映る見せ方を心得ている。
やがて3分くらい足を開いたり、ブリッジしたりして、女の子は去っていった。
照明を見ると、青とピンクが混じって薄紫色のような感じだ。たぶんこれが女の子を一番きれいに見せる色なのだろう。この色にたどり着くまでの苦労を思うと微妙に感心してしまった。
「さて次は何かな?」と心の準備をしていると、何やら騒がしいおっさんが入ってきた。ちょっとチンピラ風だが、服装や威圧感は全くないので、たぶん違うと思われる。だがおっさんはワガモノ顔で客席をうろつき、席が空いてないと分かると私の後ろに座った。すると女の子が登場しただけで、「ヒュー!!」とか、歓声を上げだした。うるさいと思う反面、会場が盛り上がったことは確かであり、ちょっと感謝。
また女の子が5人出てきてダンスを踊り、やがて1人になって脱ぎ始めた。この子もパンツを腕に巻いたので、どうやらそれがお決まりらしいことに気づく。そしてまた散々足を開いて去っていった。
■冷静に分析してみる
ようやくパターンが飲み込めてきた。どうやら最初にロシア人が二人いたのは例外らしく、基本的には最初にみんなで踊って、交代で誰か一人が脱ぐというパターンらしい。そしてお決まりとしては、パンツは腕に巻く。また意外なことに、パンツを脱いだ後に、おっぱいを露出するというのも、どうやら共通しているようだ。ちなみに露出前は透けた服を着ているから、まぁなんとなくは見えるのだが。
そして踊り終わって、ステージの前に来ると足を開いて客席に見せて、次にブリッジをするというパターンが多いようだ。それにしてもブリッジやおしりをこちらに向ける体勢の時にはもう顔なんて見えない。ただひたすらモロである。普通なら引くが、この照明なら、まぁアリである。
また中には江頭がやるような3点倒立を崩した形をやる人もいる。この体勢はきつそうなので、決まった時には惜しみない拍手が送られる。
ステージは一回につき、だいたい5分くらい。大きい休憩以外は、ほとんど間は10秒くらいで次のステージが始まる。女の子は日本人5人、外人4人の計9人ということも分かった。ちなみに全体的に女の子のレベルは高い。みんな20代だろう。少なくとも「おまえは脱ぐな」みたいな人はいなかった。むしろ頼むから脱いで、という人の方が多かったのは浅草ロック座ならではだろう。
そんなこんなで、どんどんと時間が過ぎていく。さっき入って来たおっさんは、いつの間にか前の方に行き、音楽に合わせて手を振り回して踊っている。ノリノリだ。
たぶん1時間は経過しただろうか。すでに5ステージぐらいは見た。時間が経って分かってきたことがある。それは女性器の形が本当に色々あるという事実である。別に中を開いてどうこう、ということはないので外側しか分からないが、それだけでも人によって違うのである。なんかお尻の割れ目の延長のような線だけの人もいれば、激しく存在を主張している物を持つ人もいる。また双子は女性器も同じ形だというも分かった。
それと観客の視線である。熱い。非常に熱い。まさに熱視線である。もう「そこ」しか見ていないという感じだ。それは回るステージに合わせて視線が動くことから分かる。ただ一方で意外と節度を持って見ているのも分かってきた。汚いヤジを飛ばす人もいないし、トイレに行って帰ってこない人もいない。みんなただひたすら見ているのである。そして「もうおまえは2、3回同じ人のを見ているだろ」と言いたくなるぐらい、みんなず〜っといる。人の出入りはあまりない。
それに何よりの驚きは、私がすっかりこの環境に慣れてしまったことである。途中で寝むりそうになった時もあったが、目を開ければ全裸の女の人がいるのが当たり前になってしまったのである。これは非常に変なことであるが慣れたものは仕方ない。
ちなみに友人は、普段からクールなだけあって、アゴに手を当てて一歩引いたような姿勢を装ってはいるが、すさまじい集中力で見ているのが分かる。何しろ私がずっと見ていても、全く気づかずにステージだけを見ているのだから。そんな感じなので友人とはほとんど会話をしなかった。
かれこれ2時間はいただろうか。全ての女の子のショーを見たので、そろそろ出ることにした。
■街ゆく人が裸に見える
外に出ると、すっかり日が暮れていた。年末の忙しそうな浅草の町並みが拡がっている。だが、だめだ。脳ミソが元に戻らない。すべての女の人が裸に見えてくる。すごい特殊能力である。そのことを友人に告げると、「俺も見える」という。どうやらストリップに行った人はみんな身に付くようだ。
食事をしようと、一軒の定食屋に入る。瓶ビールとカツ定食を頼み、二人でゆっくりとビールを飲む。「すごいな」「すんごいな」「ありえないね」「すごい世界だ」。
ビールを飲みながら、ずっと二人で「すごい」を連発しまくる。友人が「ストリップを見る前と見た後では脳ミソが違っちゃうよ」と言った。いつもなら「大げさだよ」と笑い飛ばすが、今日は頷いてしまった。そう、我々はとてつもないカルチャーショックを受けたのである。こういう時はストリップの洗礼を受けたというが、洗礼というより「ぶっかけられた」と言った方が適当だろう。それぐらい衝撃的だった。目をつぶればいつまでもあのステージの光景が浮かぶのである。もう軽いトラウマのような感じだ。
定食屋の客はみな有馬記念を買って外したらしく、その愚痴を言っている。いつもならうるさく感じるが、今日はおおらかな気分で聞き流せるから不思議だ。
帰り道でも、ずっと友人とストリップの感想を話しては笑っていた。冒頭で書いた重いテーマのことなどすっかり忘れ、この世の中にはまだまだ知らない楽しいことがいっぱいあるという、希望だけが私を満たしていた。
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