『こんなヒップホップを待ってたぜ!』


 歴史の続きを書こうと思う。「ラップの起源」の続きだ。

 日本のヒップホップの歴史がまた動きだした。

 話を時間軸通りに書こう。先週の土曜日(06年2月)、渋谷のgameというクラブに行った。お目当ては、現在のヒップホップ界の最重要人物・ダースレイダー。そして、僕の大好きなステルスだ。

 ダースレイダーと言えば、「日常に音楽を」を合い言葉にヒップホップ普及運動につとめる男である。彼はそのためにアルバムを1000円で売るレーベル・ダメレコを設立。また、同時にフリースタイルというヒップホップの原点とも言えるマイクバトル大会を数多く主催。ジブラなどのトップアーティストたちとは2世代ほど下ながら、いまでは日本のヒップホップ界の「台風の目」に成長した。

 一方のステルスは、ダースに比べるとぜんぜん無名だろう。僕はたまたま昨年のB-BOY.PARKで目にして以来、すっかりファンになり、ファーストアルバム発売記念イベントにも足を運んでいる。

 彼らは横浜で96年に6人で結成されたグループ。現在は2MCと1DJと3人減っている。MCのベラマツは介護士。クライムは高校教師。そしてDJのKAZZ-Kはレコード店勤務の3人組だ。

 彼らのファーストアルバム『白い三日月』で注目なのが、名曲「真夏のジャム」。そして、ユウザロックがMCを勤めていた伝説のラジオ番組「ヒップホップナイトフライト」でステルスが紹介されたテープから始まる「マイク中毒pt2」の2曲。

 この曲に込められた熱い思いは、ヒップホップに冷めてしまった人々を再び熱くさせる「何か」がぎっしりと詰まっている。

 さて、ふたたび時間を渋谷に戻す。いまは夜の12時半。寒い。僕は連れのNさんと、とぼとぼと青山通りの坂道を上る。コンビニの下に目指すgameはあった。免許を見せて2500円を払い中に入る。

渋谷GAMEに突入


 フロアに入ると、すでにステルスのクライムがマイクを持って話している。「さぁここからダメレコオールスターズの登場だ」と言うと彼はステージを後にした。もうステルス終わり?

 すると、すぐにダースレイダーとダメレコのメンバーが登場。あまりダメレコに詳しくない僕は、だーれも分からない。ただ彼らの勢いはすごい。迫力もすごい。声量もすごい。でも、なに言ってるか分からない。とりあえず、メンバーが入れ替わり立ち替わりラップをする。

 う〜ん、不思議だな。何にも伝わらないし、なぜか、どのトラックも同じような印象。もうちょっとじっくり聞きたいのに、ババババとラップして、はい、次。って感じ。よくわからんよ。

 続いて、登場したのはダメレコの女の子・コマチ。彼女は去年の両国で行われたB-BOY.PARKで見てる。僕の判定では彼女が勝っていたのに決勝トーナメントで負けてしまった子。けっこうお気に入り。

 さて、今度アルバムが出るから、その中から一曲。とのことだったけど、まぁいい感じの曲。特別な印象はないなぁ。

 さてさて、次は今日の特別ゲスト・ガグル。彼らは2年連続ぐらいでB-BOY.PARKで見てるぞ。仙台のすごいラッパーでしょと思って見始めたけど、う〜ん、正直普通かな。言ってることは分かるんだけど、その紡ぎ出す言葉の行き先が分からない。つまり、何が言いたいかわからない。主張がない。これは困った。

■怒濤のDJタイム

 ここで休憩となる。今回のイベント「触」は、日本語ラップしか流さない。ということで、DJタイムでも、すげぇアゲアゲ。

 いきなりオジロから始まる。やっぱりマッチョはいい声だわ。それをステルスのクライムを始めとした数名がステージ上でカラオケのように一緒に歌う。ブッタブランドとかみんな普通にラップしてる様子を見ていると、なんかちょっと変な気分。世にも珍しい日本語ラップカラオケ大会って感じ。

 時計の針は気づくと2時30分。ここから第2部のスタート。

サ上とロ吉

 ステージに登場したのはサイプレス上野とロベルト吉野のコンビ。ステージを見るのは始めて。

 それにしても、この二人は客いじりが抜群に上手い。特にDJのロベルト吉野はいい音持ってるよ。いきなりストリップ小屋の昭和臭い音で「え〜みなさん踊り子さんにはお手をふれないようお願いします」なんて音を流してから、サイプレス上野のラップがスタート。

 なぜか上半身裸でDJをするロベルト吉野。キュルキュルといい感じでレコードをこすっていたのだが、途中からなんだか様子がおかしい。音が途切れてグダグダ感がただよう。「おい、どうした? 俺たちはミスはしないぜ。どうした? スクラッチの調子が悪い?」とサイプレス上野が声をかける。

 必死でレコードの出だしの部分を探すロベルト吉野は上半身裸。「ん? どうした? おい! おまえはなんでヘッドフォンをしてないんだ?」というサイプレス上野の声に反応して、ロベルト吉野を見ると確かにヘッドフォンしてない。だから、頭出しが上手くいかなかったのか? 会場が笑い声に包まれる。

 そんなこんなでグダグダなライブ。その結果「おい、手を挙げようぜ!」とサイプレス上野が客席に声をかけても反応が薄い。そこでDJはランDMCの出だしをかける。すると観客は反応して自然と手が上がる。

 「俺の声には応えなくても、ランDMCには反応するんだな」と寂しそうなサイプレス上野。それを2、3回繰り返したところで、そのまま自分の曲へ。上手い、でも、ずるい。こんな形で手を挙げさせるラッパーは始めて。

 さて、サイプレス上野とロベルト吉野のコンビが終わると、いよいよオオトリのステルスが登場。

やってきましたステルス登場

 「9月ジャズ」で始まったメローな感じのステージから、すぐに「真夏のジャム」へ。ステルスを知らない人もさすがにこの曲には反応する。不思議なことにステルスの言葉だけはしっかりと聞こえる。フローの問題なのか、言葉の選び方の問題だろうか? 不思議だ。「才能ないやつはだめだ その言葉に負けたらそれまでだ」。間違いなくはっきり聞こえるし、その言葉の重みも伝わってくる。これがラップだと思う。

 そして、ここでクライムのMC。「日本語ラップが変な方向に行ったという人がいるけど、変な方向に進んだのは自分自身だし、それを止めるのも自分自身だ。自分を無くすのは自分、自分を取り戻すのも自分だけだ」と響く言葉をはく。

 客に声をかける。客が反応する。「こんなヒップホップを待ってたぜ! 俺は。俺が客に問いかけて、そしてみんなが考えて応えてくれる。そんなヒップホップを待ってた」。

 さんぴんキャンプのムロの名言「こんなシーンを待ってたぜ」のオマージュとも言える発言で感極まったクライムは相棒のベラマツにマイクを振る。ベラマツは「さんぴんキャンプが太陽だとしたら、触(イベントの名前)は、日蝕のように少しずつ太陽を浸食して行くんだ」。

 再びマイクはクライムへ。「おい、どんだけ盛り上がってるんだよ。俺はここにいる奴らの中でいま一番上がっている自信がある。絶対におめえらに負けないくらい上がってる。俺はこれから会場の人に怒られるぐらい上がっていく。そして、その後に謝る腰の低さにも自信がある。行くぜ! マイク中毒!」

 もう会場が壊れるほどの勢いで「マイク中毒」が進んでいく。いつの間にかダースもステージの上で嬉しそうに笑っている。18歳でユウザロックのラジオでほめられ、その言葉を信じて進んできた。それからの理想と現実を歌っているラップ。修学旅行で「ギドラのファーストとブッタブランド」を買った思い出などが綴られたラップは、ずっとヒップホップを聴いてきた人にはめちゃめちゃ響く。

 やがて曲が終わった。ダースに肩を抱かれたクライムは泣いているようにも見えた。ダースがマイクを握る。「最高だった、ステルス。俺はおまえらがラジオで紹介された時のナイトフライトを聞いてたぜ」と意外な発言。多分10年くらい前の話だ。さらにダースは「クライムは、ユウザロックがラジオで教師になる、って言ってたから高校教師になったんだ」とこれまた意外な発言。すげぇ、あいつはすげぇよ。一気に好き度がアップする。

ヒップホップ講座でジブラを学ぶ

 そんなもの凄いライブの後に始まったのは、第1回目となる「ヒップホップ講座」。講師はダースとサイプレス上野。そして、題材は「ジブラ」だった。

 キングギドラ時代からのジブラの代表曲をかけながら、韻の踏み方のすごさを解説していく。それにしても、会場もギドラの曲だとめちゃめちゃ上がる。みんな大合唱してる。「まぁこの後ケーダブが『てゆうか』で始まるラップをするんだけどね」にまた会場に笑い声が起きる。

 さらに数曲を紹介したダースが「ここで問題の曲をかける。俺はこのジブラのバースはすごく好きだ」と会場に声をかける。流れてきたのは、ドラゴンアッシュの「グレイトフルディズ」だった。

 ドラゴンアッシュのバースは無視する会場。そしてジブラのバースではやっぱり大合唱。

 曲が終わるとクライムが「俺はここで盛り上がれないやつの気持ちが分かる」と発言。ステージ上でもいまだに賛否両論の様子。その後も「俺は嫌いだ」という発言する出演者もいた。

 だが、ダースは「俺はこの曲がヒットした時にみんなで上がれば良かったと思ってる。誰かだけが良い思いをするんじゃなくて、みんなが良い思いをするんだ。そういった色んな問題や反省がこの時にはあった。2006年はみんなで上がっていく年にしたい」と力強く語った。

 気づけば時間は4時半。この言葉を聞きながら、私は会場を後にした。

 ステルスのライブで満足度は一気に上昇し、ダースの発言で持ち帰るお土産も手にした。もう残る理由はなかった。

 とにかく「グレイトフルディズ」について、もう一度ラッパーが語った。アンタッチャブルな存在になっていたあの曲を語った。そのことに価値があったと思う。あれを無視しては行けない。それを認め、振り返り整理して消化した時から、またヒップホップの時計の針は動き出すのだ。

 とにかくステルス。最強だ。彼らのライブは、サンボマスターが言うところの「魂の放射」。魂でまくり、すげぇエネルギーだ。

 そして、ダース。彼のオーガナイズする能力はピカイチである。もう一度「さんぴん」的なイベントをやれるのは彼しかいないだろう。

 だが、かつてさんぴんを主催したECDがソロであったのに対して、彼は仲間が多すぎる。それらを振り切って冷静な目でピックアップしていくことができたら、すごいイベントが実現するだろう。そんな可能性を感じた夜だった。

(了)

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